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http://p.booklog.jp/book/69953今回も短編小説集。
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鋏同盟の掌編集第三弾、できたてほやほや、
今回も電子書籍しました。こちらからご覧いただけます。
2012.12.07 ゴミ袋

ある朝のことである。
その日は可燃ゴミの収集曜日であった。
私はいつものようにゴミを出すため外へ出た。
マンションの住人専用の収集所、金網で出来た蓋を開け、自分の持って来た袋を放り込もうとした時である。

「なんかあの袋大きすぎないか……?」

私の住む市では、可燃ゴミの有料指定袋は大・中・小・ミニと4種類あるのだが、その大サイズよりも更に大きいと思われる袋が入っていたのである。
「大ってこんなに大きかったっけかな」と不思議に思いながら見ていると、袋の印刷がのびていた。

「あー、押し込んでるうちにのびちゃったのかな?」

………いや、違う。
よくよく観察してみると、大きな袋に沢山の薄い縦ライン。
どうやら無理矢理ビニールを引きのばし、袋を限界まで大きくして、それにゴミを入れて出しているらしいのだ。
私はその場で吹き出すのを堪えきれなかった。
こんなことやってて恥ずかしくないんかい。
私は観察を続けた。
その次の収集日も、そのまた次の収集日も、同じように引きのばされた袋が必ず一つ入っている。
しかも指定曜日の前日に出されているのを見かけることもしばしば。
恐らく自分でも分かっているのだろう、これが褒められたことではないということを。
私は自分勝手な想像を止めることが出来なかった。



「あ、明日可燃ゴミの日だ。ねえ、ゴミ袋用意してある?」
「まだー。ちょっと、時間あるなら用意しといてよ」
「しゃーないな。えーっと、ゴミ袋、ゴミ袋……あった。んしょ、んしょ、あ!っと危ない危ない。破れるとこだった。んしょ、んしょ」

そして彼女(仮)は大きな袋をせっせと引きのばし、沢山のラインを描いていく……



面倒ではないのだろうか。
破いてしまうかもしれないというリスクを背負いながら、時間をかけてゴミ袋をのばすより、その内側に多く残った空気の塊を押し出し、嵩を減らして袋に詰める方が圧倒的に易いのではなかろうか。
(現に、件のゴミ袋は無駄に蓄えた空気でいつもふくふくと、太っている)
それとも、そこに何かを、彼女(仮)は見出しているのだろうか。
「こんなに素晴らしいことを思いついた私って、なんて頭が良くて、機転が利いて、知恵の働く女なんだろう!」と、「皆馬鹿よね、律儀にゴミ袋買っちゃってさ、阿呆らしい」と、他を見下してほくそ笑んでいるのだろうか。
私から見れば、そんなツマランことで悦に入っている彼女(仮)の方が数倍阿呆らしく思えてならないのである。

そして最後に、はたと気付くのだ。
勝手な観察から勝手に想像されたこの非現実に対して、静かに嘲笑い、貶して楽しんでいる私が一番の阿呆であるということを。
2012.12.05
 梅雨の最中に僅かに晴れ間が覗きましたので、犬を連れて近くの農道を歩いておりました。
 途中、ビニールハウスの中を覗くといやに殺伐したものを感じ、すこし近づいて覗いてみるとスイカがごろごっろしておりました。
 スイカを買うときはその叩いた音色を基準にするというのは昔から言われていることです。
 ビニールハウスの中に入って拳で叩いてみました。意外に響かないものです。
 コツコツといいますが、どうも皮の厚みのわずかな部分で鈍い音が散っているような印象です。
 それから別のスイカもいくつか叩いてみましたが違いはわかりません。
 気づくと連れていた犬は僕のうしろ3メートルほど離れた入り口のところでため息しており、
「ご主人。全くご主人の生産性のないお遊びにはこの犬、疲れました。毎日がお遊びです。
この犬がご主人のかわりに働きにいけるものなら、いくらでも働きましょう。
うだうだと家にいらっしゃって、まあなんとも情けない次第です。
犬とて、何もすることなくじっと家にいるのは苦痛でございます。
して、ここでご主人には、さらばと申し上げたい」
「もう帰ってこないのかい」
「犬は自分の仕事をして参ります。それからご主人にまたお会いしましょう。
ご主人は犬や他の人間を見習ってその間、社会に生きる者として必ず精進されていて下さい。
それが犬との約束でございますよ。きっと次に会うときには立派になられていてください」
 犬は、では、と言うと夕刻の薄闇の中を四本足で駆けていきました。
 それから一ヶ月して何者かが私の家の呼び鈴を鳴らしました。
 玄関ごしに誰かと問うと「犬でございます」と声がしました。
 玄関を開けると犬のほかに別の犬が三匹、人間が二人、もぐら一匹、蝶やら蜂やら小鳥やらが数匹ずつおりました。
「犬よ」と僕は言いました。
「お前も見て分かるとおり、僕は何も変わっていない。お前は、どうやらお前の仕事をしてきたようだな」
「そうです。犬は、犬の仕事をして参りました。犬は社長になりました」
「犬よ。僕をお前のもとで働かせてくれるなら、僕はいよいよ働こう」
「ご主人がそう言うと考えていましたので、もう社員名簿に入れております。では行きましょう」
「もう行くのかい。今日から働くのかい」
 社員一同がじっとこちらを見ているので逃げるわけにも行かず、僕はぼろぼろの部屋着のまま靴を履いて外へ出ました。
「まず今日は犬鎮祭が二件。佐藤さん家のセーヌちゃんが葬られている竹やぶ。
井上さんちのピイチちゃんのお墓のある河川敷を回ります」秘書のもぐらが言いました。
 社員一行は竹やぶでセーヌちゃんを忍んで黙祷し、それから河川敷へ行ってピイチちゃんのお墓に水をかけました。
「さて。我々はただ今からここにて新事業に着手する」
 犬がいつも散歩していた農道の、とうもろこし畑の前で宣言しました。
 では始め、と犬が号令をかけると社員は一斉にとうもろこし畑の中にわらわらと侵入していきました。
 とうもろこしの背が高くどっしりと密集しているためすぐに皆の姿は見えなくなります。
「ご主人もお入りください」
「ここで何をするのか」
「とうもろこし迷路を作るのです。近くの学童保育所から委託を受けて我々がこの畑を借り、大きな迷路を作るのです。夏休みに、子どもらや家族連れが遊びます」
 僕は体力がない上に肉体労働に取り組むこと自体が極めて敬遠したい事柄であるために、この仕事は苦労しました。きちんと図面の道筋通りにトウモロコシを抜いて行かないと小鳥たちにつつかれます。
 作っている自分が道に迷ってしまうことも多々ありました。
「この迷路は」僕は汗をさかんに垂らしながら犬に尋ねました。
「ずっと残るものなのか。来年の夏もそのままだろうねえ」
「馬鹿おっしゃい。とうもろこしが腐ってしまいます。来年は来年で、また作るのですよ。もっとも、来年からは、はじめから道筋を作って植えられるでしょうけれども。今年はもう植えてしまっているので、仕方がないのです」犬は舌と肉球から豪快に水蒸気を立たせながら答えました。
「なんだい。ではまるで作る気がなくなるよ。せっかく作ってもこの夏だけならばねえ」
「それでも犬はただ働くのみです」
 僕の動きが遅くなってきたので、またひとつ頭を小鳥に突かれます。
 一週間ほどでとうもろこし迷路は完成しました。
「犬はまた新しい仕事のために遠くへ行きます。帰ってくるかは、わかりません。けれども、今度こそご主人はきっと立派な人におなりなさい」
 犬はまた去っていきました。僕は家に戻ってすいかを食べました。約束を果たさねばならぬという思いと、また待っていれば犬が迎えに来てくれるのではないかという思いがありました。

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